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ビットコイン分裂の危機 8月1日に何が起こるのか

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「日本仮想通貨事業者協会」に加盟するビットコイン取引所13社が、ビットコインの預け入れや引き出しを23日に一時停止すると報じられています。一方で取引所最大手のBitFlyerは23日は通常通り取引を行い、当初の予定通り8月1日に取引を停止するとしています。いまビットコインに何が起こっているのでしょうか。

参照:

「日本仮想通貨事業者協会」加盟取引所13社がビットコイン取引を23日に一時停止、最大手のBitFlyerも8月1日に取引を一時停止と発表。ビットコイン分裂の危機の背景と、8月1日に予想される混乱とは
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ビットコイン一時停止は誤り

ヤフーニュースの見出しで“「ビットコイン」一時停止”とありましたが、これは誤りです。ビットコインは7月23日も8月1日も動き続けています。しかしながら7月23日と8月中旬、11月中旬に大規模な仕様変更を予定しており、その仕様変更に対応しないシステムが多数あった場合に一部の取引が適切にビットコイン・ブロックチェーン(取引を記録した帳簿)に反映されない可能性があります。

実際に2015年7月4日の仕様変更(BIP-66)では新仕様に対応したシステムと、旧仕様のまま動くシステムとの間で異なる帳簿に分裂してしまい、取り残された帳簿(オーファン・ブロック)に記録された一部の取引を後から無効とする混乱が生じました。こうした分裂はビットコインの仕様が当初から想定しているもので、小規模な分裂は一日に数回も起こっています。当時と違って今日の仕様変更は多くの関係者が理解しているので、同様の混乱が起こる可能性は低いとの見解を日本ブロックチェーン協会が7月22日に公表しています。

(追記:記事公開後の7月23日13時46分から仕様変更(BIP-91)が有効となり、特に混乱は生じていないようです)

8月1日に懸念されているのはこうした仕様変更ではなく、従前の「ビットコイン」と、新たな仮想通貨「ビットコインキャッシュ」との恒久的な分裂です。2016年頃からビットコインの取引の増加で取引が滞りがちになり、その解決策がいくつも提案されてきましたが、開発者と採掘業者(取引を処理した対価としてビットコインを受け取る運営者)の間で利害が一致せず、中国の採掘業者Bitmainを中心としたグループが8月1日に既存のビットコインから分裂すると宣言したのです。

こうした分裂は過去に仮想通貨Ethereumで2016年10月18日に生じています。この時は仮想通貨ファンドThe DAOの脆弱性を悪用した大規模な仮想通貨流出事件を受けて、Ethereumの開発者が該当する取引を無効とする仕様変更を提案したところ、その提案に反対するグループがEthereum Classicに分裂しました。記事を執筆している7月23日現在、Ethereumは約232ドル、Ethereum Classicは約17ドルで取引されています。

執筆時点で実際に8月1日の分裂が決行されるかは予断を許しませんが、仮に分裂した場合どのようなことが起こるのでしょうか。まず分裂前のブロックチェーン上に記録されているビットコイン1BTCは、分裂以降は株式分割のようにビットコイン1BTCとビットコインキャッシュ1BCCとなります。ブロックチェーン上に記録されていない信用取引や取引所の口座に預け入れたビットコインが、同様に分割されるかは取引所によって対応が異なる場合があるので確認が必要です。

厄介なことに分裂前後の取引が分裂後のチェーンのみに記録されるのか、両方に記録されるのか、何らかのトラブルで消えてしまうのかは保証できません。事態が収束するまで取引所がビットコインの預け入れや引き出しを停止するのは、こうした不確実性によって顧客の資産を毀損することを防ぐためです。

これだけであれば仮想通貨の分裂は株式分割のようなもので、分裂時の混乱さえ乗り越えれば問題ないようにも見えます。しかしながら今回の分裂は、ビットコインの安定運用や、価格を支えてきた様々な前提を損なう可能性があります。

分裂を宣言している中国の採掘業者Bitmain社は約3割の処理能力を握っています。彼らが持つ処理能力をビットコインではなく全てビットコインキャッシュに振り向けた場合、ビットコインを処理する能力が7割近くに減少し、現在10分毎に処理されている取引記録が、約14分毎となってしまって、ただでさえ詰まっている処理がさらに滞ります。ビットコインには処理能力に応じて採掘の難易度を調整する機構が組み込まれていますが、調整の仕組みが働くまでの数週間は、取引の積滞が続くと考えられます。

さらにビットコインの安全性は採掘能力によって担保されており、数割の処理能力を悪用できれば取引記録を改竄できてしまうという安全上の問題があります。これまでビットコインだけに振り向けられてきた採掘業者の処理能力が分散した場合、特に計算能力のシェアが低い仮想通貨は乗っ取られて改竄されてしまうリスクが高まるでしょう。

もともと仮想通貨は中央銀行による野放図な量的緩和に対する批判として、設計レベルで発行総額の上限を予め決めることでインフレを起こさず、価値を維持することを企図していました。しかしながら開発者や採掘業者の意志で簡単に分割できることになってしまうと、発行総額が決まっていることによる希少性という前提が崩れてしまいます。今回のような分裂だけでなく、理論上は仕様変更による発行総額の見直しもできてしまうからです。

仮想通貨は金の採掘と同じように無から有が産まれたのだというフィクションの上に制度が設計されています。発明者とされるSatoshi Nakamotoの正体は判然とせず、運営者はいない前提で全てが成り立っているのです。近代会計原則に基づいて中央銀行でさえ通貨の発行に応じた負債を計上しているのに対して、仮想通貨の発行では誰も負債を計上していません。仮想通貨を巡るトラブルが起こる度に仮想通貨もまた人間の意志によって運営されていることが顕在化すると同時に、トラブルを収束させるためのガバナンスを確立しようとするほど、運営者がいないとするフィクションを掘り崩すジレンマに陥っています。

これまでビットコインをはじめとした仮想通貨は巧みな比喩と国境を越えた実用性によって、犯罪や外為規制の潜脱に悪用されながらも社会から受け入れられてきました。そもそも仮想通貨とはどのようなもので、利用者を守るためにどのように運営されていくべきか、価格変動が大きい中で税務や会計上どのように取り扱うべきか、発明されてからわずか10年足らずの技術で、運営を巡る主導権争いや、取り扱いをめぐる試行錯誤が続いています。

(筆者はヤフー株式会社の従業員、国際標準化機構 ブロックチェーンと分散台帳技術に係る専門委員会の国内委員会 委員長、日本ブロックチェーン協会のアドバイザーですが、この記事は個人の見解に基づくものであり、所属する組織とは関係ありません)

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